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(高田宏臣寄稿)奥秩父のとある山中に残る導水路より


(有機土木協会代表理事 高田宏臣のFacebookページより転載)

先週訪ねた奥秩父のとある山中に残る導水路。


 昭和初期と思われる。岩盤からの湧水を集め、そして余水は沢に戻る。湧水を妨げず、そのため山を痛めず、必要以上の水は川に戻り、水は清く冷たい。
 山河を痛めず、必要な水をいただく造作は半世紀以上の時を経て機能し、美しく神々しく、山々もこの人間の造作を受け入れている。
かつてのそれとは対比的に、戦後のダム開発の中で埋め込まれた閉鎖的な導水路は今、あちこちで大規模な土砂崩壊の原因となるケースが多い。
また、現代、水道管の漏水・破損による不具合は年間2万件に及び、下水道管が原因となる陥没・沈下は今、把握されているケースだけで年間4〜5000件に及ぶという。
 自然に逆らい続けてきた現代土木がつくってしまった矛盾だらけのインフラが今、社会基盤を根底から揺るがす膨大な負の遺産となりつつある。
故郷を愛おしみ、その恵みの源である健康な山河を守り、そしてその恵みを独占しようとせず、全ての命と共にあろうとした先人たちの残した美しきインフラ、美しき造作が今、未来への道しるべとなる。
山が乾けば山の動物たちは生きられず、里に降りてくる。
また、クマさんのような賢い動物たちは、人間が何をしているか。、分かっている。それがいのちの法則に従うものか、そうでないものか。
 今、クマの恐怖を煽り立てる前に、里山における人間の営みが他の生きものたちにとって暮らしやすいものにしてきた矛盾なき生き方や技を今、掘り起こし、伝えたい。